アマチュアの小説家・脚本家として活動をしています。恋愛・人情モノが得意ですが、指示があればなんでも書きます。
<活動歴>
・プロを目指したのは大学卒業間際あたり。それまでは趣味の範囲内の活動。各種公募に挑戦中。
・小説は独学。電撃大賞応募歴アリ。
・脚本はシナリオ・センターで学ぶ。TBS連ドラ・シナリオ対象に応募歴アリ。


課題 結婚式

 最高の不幸せ

   人 物
 花澤世梨(35)フォトグラファー
 新名朔野(28)会社員
 榎本伊織(45)世梨の担当編集者
 河合蒼菜(28)新名の婚約者
 花澤俊彦(60)世梨の父
 花澤梨恵(62)世梨の母
 添乗員A
 神父B

〇飛行機・ビジネスクラス(朝)
   花澤世梨(35)、数枚の写真を手に首をひねる。机の上も写真でいっぱい。
添乗員A「お客様、当機はまもなく着陸態勢に入りますので……」
世梨「あぁ、ごめんなさい。そうだ、ねえ、貴女、これとこれ、どっちが良いと思う?」
   世梨、添乗員Aに写真を見せる。
   エベレストとギリシャの神殿の写真。
添乗員A「わあ、どっちも素敵です!」
   機内が揺れ、写真が落ちていく。

〇空港・喫茶店(朝)
   床に写真がばら撒かれる。
   榎本伊織(45)、ウインドウ際の席に座る。コーヒーを片手に、
榎本「あ~ああ~、やっちゃった……」
   榎本、コーヒーを置き床にしゃがむ。
榎本「全く、この中から絞るだなんて無理を言うなァ、どれも凄く良い……」
   ウインドウがノックされる。
   榎本、ウインドウの外を見る。
   世梨、しゃがんで手を振っている。
榎本「は、花澤センセっ! いだっ」
   榎本、立ち上がろうとしてテーブルで頭を打つ。

〇風景・高速道路
   ビル群の中を通る。沢山の車が行きかう。赤いスポーツカーが走っている。

〇赤いスポーツカー・車内
   運転席に榎本が座る。世梨、助手席に座る。世梨、ドーナツを食べながら、
世梨「もう、先生は止めてねって何度も言ってるのにシツコイなァ、イオリンは」
榎本「イオリンは止めて! それで、早速編集部に行きますか? 昼飯先にします?」
世梨「アッ、ねぇねぇ、もう絞らないってどう? いっそのこと、国地域被写体に一切縛り無し、私と一緒に行く世界旅行!」
榎本「世界旅行かぁ……、だとすると、日本の写真も欲しいですね。いただいたデータは全部海外ですからね」
世梨「イイね! よし、決定だ! じゃあ、このまま駅まで頼む! 一旦実家に帰るわ!」
榎本「ええっ、編集部来ないんですか?」
世梨「私、あそこ息苦しくて嫌いなんだよね」
榎本「あはは……、世梨さんには狭すぎるか」
世梨「私、ワールドワイドな女だから」

〇実家・玄関・外
   世梨、立ち尽くす。
   門扉に売物件の札が下がっている。
世梨「いやいや……さすがにコレは受け入れられないでしょ~! どうなってんの!」
   世梨、門扉を蹴りまくる。
   隣の家から新名朔野(28)が飛び出す。
新名「アッ……!」
世梨「んん?」
   新名、ゆっくりと世梨に近づく。
新名「よ、より、ちゃん、なの……?」
世梨「は? 誰、アンタ」
新名「うッ……! その、容赦ない感じ、絶対世梨ちゃんだ……! 幼馴染の、朔野! 隣の家の! 覚えてるでしょ?」
世梨「あぁー! あの、朔野か! おっきくなったなぁ~! 何歳になったの?」
新名「世梨ちゃんの七つ下だから28だよッ!」
世梨「そっかそっかぁ! アッ、ねえ、ウチどうなってんの? なんか、居ない!」
新名「え、世梨ちゃん、聞いてないの?」
   世梨、首を傾げる。
   新名、近くの高層マンションを指さす。
新名「あそこに引っ越したよ。半年前位に」
世梨「引っ越し、娘に、言わず、引っ越し」
新名「ちなみに605号室」
   世梨、荷物を引きずり、駆け出す。
   新名、世梨を見つめて溜め息。
新名「なんで帰ってくるかな……こんな時に」
   新名、俯き、目元を拭う。

〇白寿マンション・605号・ダイニング(夜)
   花澤俊彦(60)、花澤梨恵(62)、世梨、テーブルのすき焼き鍋を囲う。
梨恵「だって貴女、どこにいるか分からないなもの。言いに行く所が無いってやつよ」
花澤「まあ、元の家から近いし良いかなと」
世梨「良いワケないでしょ!」
梨恵「父さんと母さんも若くなって話よ。アンタは世界中をプラプラしてるからアテにならないし。老老介護確定じゃない。だから、早い所介護付きの此処に来たのよ」
   梨恵、ビールを飲み干す。
   花澤、肉を取り分けながら、
花澤「要はお前に迷惑かけまいと考えた結果だな。はっはっは」
世梨「何よソレ……私は邪魔ってコトぉ?」
梨恵「邪魔じゃないわよ。今回の帰省は特にグッドタイミングじゃないの? ねえ」
世梨「はぁ?」
花澤「明日、朔野くんの結婚式なんだよ」
梨恵「私たちもご招待されてるのよね」
世梨「……え、うそ、マジで? うそおぉッ?」

〇結婚式場・新郎新婦控室
   河合蒼菜(28)、ドレス姿で立っている。
   白のタキシード姿の新名、蒼菜を見て、
新名「とっても似合ってる。キレイだよ」
蒼菜「そう? ふふ、嬉しい。朔野も似合ってるよ。すごく、カッコいい」
   蒼菜、口元を隠して笑う。
   新名、腕を組んで窓の外を眺める。
   ドアがノックされる。
蒼菜「あっ……。朔野、いこ」
新名「うん……」
   蒼菜、新名の手を取る。

〇結婚式場・チャペル・中
   礼服姿の招待客が大勢座っている。
   世梨、黒い上下に白のパーカー姿。カメラを数台抱え、端の方で立つ。
世梨「まさかのタダ働き……! くっそぉ!」
   世梨、上座に立つ新名を睨む。
   後方ドアが開く。蒼菜が入場。
   世梨、深呼吸の後、カメラを構える。

× × ×

   満面の笑みの招待客。
   涙目で微笑む蒼菜。
   俯きがちで唇を噛む新名。

× × ×

〇元の結婚式場・チャペル・中
   世梨、ファインダーから目を離し、
世梨「なんで、それ……?」
   新名と蒼菜、神父Bの
前で向かい合う。
神父B「――誓いますか?」 蒼菜「誓います」
神父B「新郎の新名朔野さん、貴方は――」
世梨の声「ちょっと待って!」
   朔野、世梨の方を振り返る。
   世梨、バージンロードの真ん中に立つ。
世梨「アンタ、ホントに結婚する気あんの?」
   参列席に座る梨恵と花澤、溜め息をつく。胃を押さえる。ざわめく参列者達。
   朔野、鼻を啜りながら、
朔野「あ、あるから、結婚してるんだろ!」
世梨「だったら、その、唇噛む阿保らしい癖、出すな! ウジウジすんな! 胸張れ、笑え! 良い写真、撮れないだろうが!」
   世梨、カメラのファインダーを覗く。
   蒼菜、狼狽えながら、手を伸ばす。
蒼菜「さ、朔野……?」
   新名、駆け出す。世梨の腕を掴んで、チャペルから逃走。
   蒼菜、空ぶった腕を抱え、崩れ落ちる。

〇道路・歩道
   世梨、首を傾げながら全力疾走。
世梨「なぜ、わたしまで……?」
新名「口開くと、舌、噛むよッ」
世梨「いやいやいや! 私を巻き込むなッ? どうすんだよ、アレ!」
   世梨、後ろを指さす。
   参列者達が追いかけてくる。
世梨「あー、一緒に、ごめんなさい、して、あげるから、戻ろ? ね?」
   新名、咄嗟に手を上げる。
世梨「おっ、話が分かるねぇ! ってッ?」
新名「早く乗って!」
   新名、停車したタクシーに世梨を押し込み、自分も飛び込む。
   走り去るタクシー。追いかけるのを諦める参列者たち。

〇山の上公園(夕)
   タクシーが走り去る。
   世梨と新名、立ち尽くす。
世梨「……どこ、ここ」
新名「……しらない」
   新名、ゆっくりと歩き出す。
世梨、後ろを追いかける。
新名「――なんで、帰ってきたの?」
世梨「写真集、日本で出すから。その打合せ」
新名「……でもさぁ、なんで、昨日? 明日でも良かったじゃん、なんで、なんで……。ぜ、全部、世梨ちゃんのせいだ!」
   新名、振り返る。ボロボロ泣いている。
世梨「男が泣くな、涙見せんな、馬鹿野郎」
   世梨、白パーカーを新名の頭に被せる。
   新名、白パーカーを握りしめ、俯く。
世梨「つーか、何が私のせいだ。私関係ないわ、バカタレ。巻き込み事故だわ」
   新名、世梨の腕を掴み、顔を傾け近づける。目を伏せつつも開けたまま。
世梨「ちょッ――」
   新名、世梨に押し付けるようにキス。


課題 葬式

 現実的に考えて、まだ死ねない

   人 物
 吉馴真由(48)ニート
 近石塔子(30)病気療養者
 丸高愛望(27)市役所職員
 吉馴京子(72)真由の母

〇吉馴家・真由の部屋(夜)
   カーテンが閉め切られ、室内灯は未点灯。学習机にゲーミングPCがある。吉馴真由(48)、PCの前に座る。
   おにぎりを貪り食いながら、
真由「ダイヤがあと十個か……まだしばらくかかるなァ。あ、ピッケル壊れた」
   PC画面にゲームで遊ぶ様子が映る。
   背後のドアがノックされる。
   真由、無視するが、ノックは続く。

〇吉馴家・二階廊下(夜)
   吉馴京子(79)、寝間着姿で真由の部屋のドアをノックする。
京子「まーちゃん、お風呂。母さん、掃除するから、入ってらっしゃい。まーちゃん」
   ドアが急に開く。
   京子、ドアにぶつかりよろめく。
   真由、ドアの隙間から顔を出し、
真由「あー、いい。入んない」
京子「もう一週間は入ってないでしょう。ね、サッパリしてきなさいな。掃除は――」
真由「いいから、そういうの。コレ、洗っといて。明日の朝ご飯はパンにして」
   真由、京子に食器を押し付け、ドアを勢いよく閉める。
   京子、一息ついて廊下を後にする。

〇吉馴家・階段(夜)
   京子、一段ずつ確かめながら降りる。

〇吉馴家・居間(夜)
   テレビだけが点く暗い室内。
   京子、こたつに入る。
京子「よいしょっ……、ふう……」
   京子、テレビのリモコンを操作。バラエティー番組を選択。
   京子、横になる。座布団を枕にする。
   テレビの光が埃を被った仏壇を照らす。

〇吉馴家・真由の部屋(朝)
   真由、PCの前で寝落ちている。
真由「んん~……、あ、あー……」
   真由、髪を掻きながら立ち上がる。

〇吉馴家・二階廊下(朝)
   真由、ドアから顔を出し、見渡す。
真由「はあ? ご飯、どこよ?」
   真由、顔を顰めて舌打ち。

〇吉馴家・階段(朝)
   真由、駆け降りていく。

〇吉馴家・居間(朝)
   真由、ドスドスと歩きながら、
真由「ねえ! 私の朝ご飯は!」
   テレビが付いたまま。カーテンが閉め切られている。
真由「はあ?」
   真由、首を傾げつつ、こたつの中に入って横になる京子を見つける。
真由「母さん! ご飯!」
   真由、足で頭を小突く。
真由「ちょっと、寝すぎでしょ! 起きろ!」
   真由、京子の身体を手で強引に揺する。
   京子、死後硬直で固まっている。ゴトッと倒れて上を向く。目を開いたまま。

〇道路(朝)
   近石塔子(30)、散歩中。スマホを弄りながら満足げに、
塔子「今日も、朝ウォーキングからの、喫茶店、できました、闘病253日目、っと……」
   真由、交差点から突如現れ全力疾走。
   塔子、驚きで息を飲み立ち止まる。
真由、塔子目掛けて駆け寄る。
塔子「な、な、なあ~ッ!?」
   塔子、目をギュッと閉じて、後退る。
   真由、塔子の前で立ち止まる。涙と涎で汚れた顔面拭いつつ、
真由「アッ、う、お、おお、おおお……!」
塔子「エッ、あっ、ええッ……? う、臭い!」
   塔子、顔を顰め、鼻を摘まむ。
   真由、息を整えて、土下座。
真由「母さんが、う、動かない、です! どうしたら、いいですか……ッ!」
塔子「えっ、えっ、ええぇぇ?」
   塔子、怯えつつ狼狽える。

〇吉馴家・玄関
   救急隊が来る。塔子、会釈し案内する。
   警察が来る。塔子、会釈し案内する。
   真由、泣きながら呆然と立ち尽くす。
   塔子、死亡新診断書と埋葬までの手順を書いた紙を真由に握らせ、立ち去る。

〇市役所・窓口
   丸高愛望(27)、鼻を押さえつつ微笑む。
愛望「死亡診断書確認いたしましたー。では、此方の用紙に記入くださーい」
   真由、漫然とペンを手に取り、固まる。
真由「……もう一枚、紙ください」
愛望「はあ?」
真由「母さんは私のせいで死にました。私が、ひ、ひ、引きこもりだから。私の死亡届と火葬許可証、ください。母さんと一緒に燃やして殺してください。死なせてください」
   愛望、一息ついて、微笑む。
愛望「火葬場の設備上、おふたり一緒というのは致しかねますねー。失礼ですが、この後のご準備はお済みですかー?」
真由「あ……、いや……」
愛望「でしたらー、市役所と提携している業者にお任せいただければー、ご遺体の輸送と火葬については補助金が使えますよー」
真由「はぁ……」
愛望「あと、失礼ですが、ご職業は?」
真由「あ……、いや……」
愛望「でしたらー、自立支援ということで、様々な取り組みを実施しておりますー。軽作業を指定支援事業所で行い、社会復帰のための訓練を受けることができますー」
真由「わ、私、そんな、できません……」
愛望「じゃあ、死ぬしかないですね。そういった支援は行っておりませんし。でもまあ」
   愛望、書類を封筒に詰めながら、笑顔を消し真剣な表情で、首を傾げる。
愛望「できないなんて、言える状況ですか?」

〇吉馴家・居間(夕)
    京子の遺体、布団に横になっている。
   真由、ハンカチを京子の顔に乗せる。
真由「明日の朝、迎えが来るんだって……」
   真由、頭を掻く。フケが落ちる。

〇吉馴家・脱衣所(夜)
   真由、明かりをつけて中に入る。
   タオルと着替えが置いてある。
   真由、風呂場のドアを開く。

〇吉馴家・風呂場(夜)
    真由、風呂場の蓋を開ける。
   水が張ってある状態。
   真由、その場に蹲り、肩を震わせる。
真由「ハァ……」
   真由、追い炊きのボタンを押す。自動音声の案内が流れる。

〇道路(朝)
   塔子、散歩中。スマホを弄りながら、
塔子「今日も、朝ウォーキングからの、喫茶店、できました、闘病254日目、っと……」
   塔子、顔を上げ、ハッとする。
   喪服姿の真由、交差点に立っている。
塔子「真由さん……」
真由「あ、あの、き、昨日はすみませんでしたありがとうございます……ッ」
   真由、頭を下げる。
塔子「い、いえ! そんな……」
   塔子、真由の姿をじっと観察する。
真由「と、塔子、さん!」
塔子「は、はいぃっ」
真由「一緒に、お葬式、してくれませんか、いや違う、えっと、その……っ!」
   塔子、微笑みながら頷く。
   真由、目元を拭い、深々と頭を下げる。

〇吉馴家・居間(朝)
   カーテンが開け放たれた明るい室内。線香の煙が立ち上る。
   真由と塔子、京子の遺体の横に座り、手を合わせる。
   真由、たどたどしい口調で、スマホを見ながら枕経を読み上げていく。次第に声が震えはじめる。
   塔子、真由の背中を擦る。

〇市役所・窓口
   愛望、窓口に座っている。
   真由と塔子、骨壺を抱えてやってくる。
真由「あ、あ、ああ、あの!」
   愛望、にこりと笑いながら、
愛望「今日はどういったご用件でー?」
真由「母さんを火葬してきました。だから、その、お墓に埋める許可をください……っ」
愛望「埋葬許可書ですねー、ではこちらにご記入くださいー」
   真由、書類に記入していく。
   愛望、塔子を見つめつつ、
愛望「……失礼ですが、どういったご関係で?」
塔子「えっと、その、お、お友達ですっ」
真由「と、とと、と、友達ッ?」
   真由、ペンを放り出して立ち上がる。
   愛望、微笑みながら、首を傾げる。
愛望「違うみたいですけどー?」
塔子「アハハ、説明し難い仲なんです……」
   真由、ポケットからプリントを出す。
愛望「あら? あららー?」
真由「あと、社会復帰の訓練も、受けますッ!」
   真由、目元を拭い、頭を下げる。